【学校の木造化・木質化】メリット・デメリットと設計デザインのコツを解説

近年、学校校舎の木造化・木質化が注目を集めており、その事例数は増えています。
しかし、まだまだ実現に向けてメリットやデメリット・注意点が十分理解されているとは言い切れません。
「学校を木造化・木質化することで後から問題にならないか心配」という方も少なくないはずです。
そこで今回は、学校の木造化・木質化について、メリット・デメリットと設計デザインする上のポイントを紹介します。
木を使う建築プロジェクトを検討中の方はぜひ最後までご覧ください。
● 学校校舎の木造化・木質化は、地球環境や子どもたちの学習環境に加えて、健康面や社会面においてもメリットをもたらします。
● 学校校舎の木造化・木質化を実現させる前に知っておいていただきたいデメリット・注意点があります。
● 「柏田木材」は1950年に奈良県で創業して以来、高品質な木質建材や技術開発支援をお客様に提供しております。
コンテンツ
木造化と木質化の違い

“木”を用いた建築の手法は、主に木造化と木質化に分かれます。
両方とも資材として木を使用する点は変わりませんが、明確な違いがあるのでポイントを押さえておきましょう。
木造化 | 建物の主要構造部( 建築基準法第2条5号で「壁・柱・床・梁・屋根・階段」と定義)に木材を使用する |
木質化 | 建物の主要構造部ではなく、内外装の仕上げ材や家具などに木材を使用する |
近年は、木造化と木質化の両方を採用する“木の学校”が全国で建てられています。(参考:文部科学省|全国に広がる木の学校~木材利用の事例集~)
学校の木造・木質化が進んでいる背景には、2010(平成22)年に制定された「公共建築物等における木材利用の利用の促進に関する法律」(※)があります。
※2021(令和3)年には対象を公共建築物だけではなく民間プロジェクトまで拡充した「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」と改正されました。
法律が整備され国の建築物における木材利用促進の基本方針である「可能な限り、木造化、木質化」の方針が自治体や地方公共団体、民間企業にまで広がりつつあるのです。
学校の木造化・木質化がもたらす効果とメリット

学校の木造化・木質化が進められている理由は、単に関連法規が制定されたからだけではありません。
児童が長時間過ごす場所に“木”を取り入れることで得られるメリットは多数あります。
環境面での効果
木材の利用促進が地球環境にもたらす良い影響は計り知れません。
- 木造はRC造やS造、SRC造よりも材料製造時の二酸化炭素排出量が少ない(参考:林野庁|木材利用の動向)
- 木材、特に運搬距離の短い国産材や地域材(地産材)を利用すると、化石燃料の消費量や温暖化効果ガス排出量を減らせる
- 木を「植える・育てる・伐採する・植える…」の森林サイクルによって、森が活性化して炭素固定量(※)が増加する(参考:林野庁|木材を使うと森が育つ)
- 木材は再使用・再利用できるだけではなく、森林から再生産できる数少ない資材なので、建物が寿命を全うした後も形を変えて利用され続ける(参考:林野庁|木材は環境にやさしい)
※森林の炭素固定量:木々が大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収して炭素化合物として固定することで、地球温暖化対策になる
このように、木材利用は地球温暖化対策の有効な解決策として世界中で取り組まれています。
近年、SDGsに向けた取り組みとして国産材や地域材を活用した製品開発に乗り出す企業様が増えています。
柏田木材は長年に渡って木材を扱ってきたことで培ったノウハウ・技術を活かして、良質な国産材を使った製品開発の支援を行っています。
外壁用羽目板や内装建材を多数取り扱っておりますので、国産材利用を進めたい方はお気軽にご相談ください。
〈おすすめコラム〉
国産材利用でSDGs達成を目指す。メリット・デメリットから活用方法まで徹底解説
教育面での効果
児童が過ごす校舎、特に内装へ木材を取り入れると、教育面・学習面でメリットがあるとされています。
特に近年は「持続可能な開発のための教育(ESD)」(※)の一環で、木材に触れながら環境負荷低減や森林保全、日本で古くから伝わる木造文化の継承を体感的に学習するプログラムを実施している学校も少なくありません。
※ESD:Education for Sustainable Developmentの略称で、気候変動・生物多様性の喪失・資源の枯渇・貧困の拡大などの現代的な問題に対して、児童が自主的に取り組むための学習活動(参考:文部科学省|持続可能な開発のための教育)
心理面・健康面での効果
農林水産省や文部科学省の資料によると、木材を使った校舎・教室は児童に心理面・健康面でのメリットをもたらすとしています。(参考:文部科学省|木の学校づくり、林野庁|内装木質化した建物事例とその効果)
- 木材の断熱効果によって、足元が冷えにくく、室温が安定する
- 木材の調湿効果によって、室内の過度な湿潤や乾燥を防げる
- 木材の香り成分によってストレス・疲労感が軽減されてリラックス効果を得られる
- 木材の吸音・吸光効果(※)によって体への負担が軽減される
- 木材に含まれるフィトンチッドなどの成分によって、消臭・抗菌作用(※)を得られる
- 明るい木目の樹種で内装(床・壁・天井・家具)を統一すると、広々と感じる
※吸音・吸光効果:木は音や紫外線を多く吸収するため、音の反響・反射光が少なく、耳や目への負担が少ない(参考:林野庁|木材は人にやさしい)
※消臭・抗菌作用:インフルエンザの蔓延が抑制されるという調査結果も(参考:文部科学省|木材利用の意義と効果)
このように、学校を実際に使う生徒や先生にとってのメリットも大きいことから、木を取り入れる学校づくりが広まっているのです。
安全面での効果
学校の設計デザインにおいて重要なのが、安全に対する配慮です。
木質床材は滑りにくく、さらに壁材や家具に取り入れるとその他の素材よりもぶつかった時の衝撃を吸収し、怪我のリスクを軽減できます。
木材の衝撃吸収力はプラスチックなど塩ビ素材のおよそ2倍、石やコンクリートの2.5倍程度という実験結果も出ているほどです。(参考:林野庁|木材は人にやさしい)
社会的効果
木材利用は地球環境だけではなく、日本の社会や経済にもメリットをもたらすことが期待されています。
- 国産材や地域材の利用によって、地域に根付き愛される“街のシンボル”的な建物になる(建物の長寿命化をもたらす)
- 国産材や地域材の利用によって、地方ひいては国内全体の林業や製材業、製造業の活性化をもたらす
- 放置林・所有者不明林(※)増加の解決につながり、地崩れなどの災害を防げる
※放置林・所有者不明林:所有者不明や経営不良によって管理されないまま放置されている森林が増えており、樹木の成長が止まると根が広がらず、土砂災害や地滑りのリスクが高まる。(参考:林野庁|森林・林業・木材産業の現状と課題)
日本は国土のおよそ2/3が森林を占める世界でも有数の森林大国であるため、木材利用・森林活性化が社会や経済に与える影響は決して小さくはありません。
コスト面でのメリット
国は木材利用の促進や木材自給率アップを目指しており、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする=カーボンニュートラル実現」に対する取り組みのうちの重要なポイントとしています。
そのため、これまでに引き続いて2025年も木材を使う建築プロジェクトに対して補助金を支払うことが決定しています。
農林水産省や国土交通省でいくつかの制度が実施され、学校を対象としたものもあるため、事前に対象要件や補助金額をチェックしておきましょう。(参考:林野庁|建築物の木造化・木質化に活用可能な補助事業・制度等一覧)
学校の木造化・木質化におけるデメリット・注意点

学校を木造化・木質化するメリットが社会的にも広まりつつある反面、事前に知っておいていただきたいデメリットや注意点もあります。
防火規定・内装制限に関する制限がある
現在の建築基準法においては、内装制限などの細かい防火規定によって木材を使用できる範囲や採用する場合の仕様に制限があります。
教室は内装制限の対象外ですが、学校の中でも耐火性のある材料を使用しなくてはいけない場所もあるので注意しましょう。
ただし、2025年の建築基準法改正によって中高層建築物等での木材利用を実現するために防火規定が合理化されます。
また、非住宅・中高層建築物に用いられる不燃木材やCLT31(直交集成板)、木質耐火部材に関する性能向上や技術革新が進んでいるため、今後はより一層、木造化・木質化プロジェクトの増加が期待されているのです。(参考:林野庁|木材利用の動向)
柏田木材では、不燃パネルの製造や不燃木材の加工を承っております。
防火規定を受ける範囲で木材を利用したい方は、ぜひご相談ください。
〈おすすめコラム〉
【内装制限】建築基準法を分かりやすく解説|建物種類・不燃材料・2025年建築法改正についても
【不燃木材】メリット・デメリットや建築基準法との関係について解説
遮音性に工夫が必要
建物内に広がる音は柱や梁などの構造材を伝わることから、木造はRC造やS造よりも建物荷重が小さく揺れやすいため遮音性能は低いとされています。
ただし、近年は床や壁、天井に使用する遮音材料の技術開発が進んでいるため、木造による音の問題はそれほど気にする必要はないというのが通説です。
また無垢材自体に高い吸音性・遮音性があるため、内装仕上げ材に木材を使うことで、高い遮音効果を期待できます。
密度の高い樹種を選んだり壁や床を二重構造にすることによって、漏れ伝わる音を軽減できるのです。(参考:木づかい.com|木材の遮音性と吸音性を知り、より効率的な使い方の工夫を。)
〈おすすめコラム〉
“無垢杉フローリング”のメリット・デメリットと選定ポイント|お手入れ方法・経年変化についても
羽目板張りの壁をインテリアに|メリット・デメリットから張り方種類まで徹底解説
トレンドの“板張り天井”を後悔する理由と解決策は?木材のプロが徹底解説
腐朽・シロアリへの対策が必要
構造部や外装仕上げ材に木材を使用する際は、腐朽(腐食)やシロアリ被害(蟻害・食害)への対策が欠かせません。
木材は湿度の高い環境に長期間さらされると、朽ちて耐久性が低下するからです。
そのため、構造材や外装材は防腐・防虫剤を加圧注入し表面保護塗装された木材を選定しましょう。
〈おすすめコラム〉
【屋外の木材防腐処理】塗料・方法の種類、現場処理と工場処理の違いを解説
屋外へ木材を使う場合は塗装が必須|その理由や塗料種類について解説
学校では環境や人体に優しい防腐防虫剤や塗料の選定が特に重要です。
柏田木材はウレタン塗装や屋外用塗装からUV塗装まで全て自社工場で行っております。
高耐久で環境に優しい塗料をお探しの方やご予算・デザインにフィットする木質建材・塗装方法でお悩みの方は、ぜひ弊社までお問い合わせください。
内装材は摩耗による劣化対策が必要
人の手に触れる壁や床などの内装材は、どうしてもキズや汚れを避けられません。
最近は、床や腰壁など特にキズがつきやすい部分に耐摩耗性の高いUV塗装を施した建材が多く採用されています。
UV塗装とは、紫外線で固まる特殊な塗料によって表面を保護する方法で、通常の塗料と比べて短時間で硬化するため、分厚い塗膜を形成できます。
ただし、UV塗装は木材表面をしっかりカバーするため木の調湿性は失われてしまうので注意しましょう。
人の手が触れない天井材は調湿性を損なわないオイル塗装にするなど、部位ごとに表面保護の種類を変える方法がおすすめです。
柏田木材では空間のトータルコーディネートを実現すべく、同じ木材でもUV塗装やオイル塗装、ウレタン塗装など異なる仕上げをお選びいただけます。
オリジナル色の調色や、環境に優しい自然塗料「オスモUVオイル」の仕上げも全て自社工場で行なっておりますので、材料だけではなく塗装にもこだわりたい方におすすめです。
※オスモUVオイルの詳細は「乾燥時間がいらない自然塗料、オスモUVオイルを紹介」をご覧ください。
木造はまだまだハードルが高め
中規模以上の建築物における木造事例は増えているものの、まだまだコストが割高で設計施工できる会社が限られている現実は否めません。
令和5年の建築着工データを見ると、3階建て以下の非住宅における木造率(床面積ベース)はたった3.9%で、学校校舎に限定しても8%に留まります。

コスト面などの理由で学校の木造化実現が困難な場合は、ぜひ“内装の木質化”をご検討ください。
文部科学省によると、立地条件や規模、構造がほぼ同様のRC造校舎で内装木質化したものとそうでないものを比較すると、在籍する子どものストレス反応に違いがあるという実験結果もあり、内装に木材を積極的に採用するだけでも一定のメリットが得られるとされています。
(参考:文部科学省|木材利用の意義と効果)
〈おすすめコラム〉
【内装制限の緩和】対象条件や住宅・店舗・オフィスの違い、消防法との関係性を解説
「サスティナブル建材」がトレンド。環境に配慮した内装材とは?基礎知識からおすすめ商品まで紹介
【FAQ】学校の木造化・木質化に関するよくある質問

最後に、学校の木造化・木質化に関する「よくある質問」を紹介します。
Q.「木造はRC造より耐震性能が劣るのでは?」
地震の多い日本では、建物の耐震性がとても重要視されます。
一般的にはRC造の方が地震や台風に強いイメージがあるかもしれません。
ところが、木造は建物荷重が小さく揺れやすい反面、建物に伝わる揺れを受け流せるため、倒壊しにくい性質も持ち合わせます。
また、木造建築の耐震・制振・免震技術は年々向上しているため、RC造やS造と特段の差はないとされています。(参考:文部科学省|木の学校づくり-木造3階建て校舎の手引-)
Q.「木造化・木質化すると火災の時に児童が避難できないのでは?」
国土交通省の実験によると、木造校舎でも出火から2時間を超える時点まで防火壁や防火区画を越えて延焼しないことが確認されており、3階建て校舎でも子供達が避難するための通路や時間を十分確保できるとされています。
そのため、火災拡大防止のための天井不燃化やバルコニーの設置などを徹底することによって、安心して学べる木造校舎の実現できます。(参考:国土交通省|木造3階建て学校の実大火災実験(準備実験)の結果と木造3階建て学校に係る論点について)
Q.「木造建築物は他の構造よりも寿命が短いのでは?」
近年、木質建材や施工技術の進歩によって、木造建築物の寿命は以前よりも長く設定されています。
住宅については、断熱性・耐震性に加えてメンテナンス性や更新性にまで配慮された長期優良住宅に認定されると、100年以上存続が可能という想定データもあるほどです。
RC造の耐用年数は120年程度とされているため、木造建築物が極端に短命という訳ではありません。(参考:国土交通省|期待耐用年数の導出及び内外装 設備の更新による価値向上について)
むしろ、日本で世界最古の木造建築物である607年建立の奈良県法隆寺(五重塔・金堂・中門・回廊)が現存していることから、数百年・数千年も使い続けられる木造校舎になる可能性すら期待できます。
〈おすすめコラム〉
施設・住宅へ“奈良の木”を使うメリットは?種類やおすすめ商品についても
【奈良県産木材】有名な種類と今後の課題について“木材のプロ”が解説
内外装用木材は“柏田木材”へご相談ください

柏田木材は、吉野杉や吉野桧の産地として知られている奈良県で1950年に創業して以来、良質な原木を仕入れて様々な建築木材へ加工販売する木質建材メーカーです。
これまで培った知識とネットワークを活かし、国産材・地域材の活用や不燃パネルの製造、不燃木材の加工、その他特殊塗装にも対応しております。
防腐処理材の加工や特殊塗装も全て自社工場で行なっているため、高い品質の建材をお求めの方はぜひ弊社にお任せください。
柏田木材が長年多くの企業様よりご愛顧いただいている理由は、多彩で高品質な当社の技術力にあります。
- レパートリー豊富な塗装・表面加工ラインナップ
- 木材の切削・接着・着色・塗装を全て自社工場で行うことによる高い品質安定性の確保
- 木材産地に近い立地によるリーズナブルな価格の実現
- 良質な国産材(県産材・地域材)の活用
- “こだわり”を実現できる多彩な特注加工・OEM製造
- 自動倉庫管理のオンタイム納品による施工効率性アップ
柏田木材は、自社製品を販売するだけに留まらず、お客様のご要望や課題を伺いながら仕様を共に決めていく“開発支援”や、“特注製造”も行っています。
そのため、材料選定やデザイン構想段階から製造まで、一貫したサポートを提供できる点が弊社の強みです。
「こんな材料があればいいのに」というお悩みを解決するお手伝いをいたします。
まとめ
学校校舎の木造化・木質化は、地球環境や子どもたちの学習環境に加えて、健康面や社会面においてもメリットをもたらします。
ただし、事前に知っておいていただきたいデメリットがあるので注意しましょう。
そして、公共性の高い建築物である校舎は木質建材の選定も重要です。
柏田木材は1950年創業以来、時代と共に様々な木質建材の製造・販売を行ってまいりました。
外装材・内装材に適した木質建材を多数取り扱っておりますので、材料選定に迷っている方はぜひご相談ください。
「どのような経年変化が現れるか心配」
「既製品の材料では設計デザインにフィットしない」
「国産材を使いたいがコスト面などでハードルが高い」
「希少樹種を使いたいが必要量の材料が確保できない」
「ウッドインテリアを採用したいが耐久性が心配」
そんなお悩みを抱えている企業様を柏田木材がサポートいたします。