「日本の林業が抱える問題点と課題」を分かりやすく解説|新たな取り組みについても
林業は日本で古くから続く歴史ある産業のうちの一つですが、近年様々な問題を抱えており、それらの問題を解決する方法として「建築・建設業界の動き」が重要な鍵を握っています。
そこで、今回は「日本の林業が抱える問題点と課題」をわかりやすく解説します。
現在建築業界を中心に行われている取り組みについてもお話ししますので、社会貢献をコンセプトとした建築プロジェクトを検討中の方は、ぜひ最後までご覧ください。
● 日本の林業は、今たくさんの問題や課題を抱えています。
● 林業の問題・課題を解決するためには、建築業界の取り組みが重要になります。
● 私たち「柏田木材」は、1950年に奈良県で創業して以来、国産材・県産材の活用へ積極的に取り組み、高品質な木質建材を製造販売しております。
コンテンツ
日本の林業が抱える問題点
日本における林業産出量は、1980年頃をピークに現在はその半数程度まで減少しています。
特に木材生産額の影響は顕著で、1980年の9,680億円から2022年の3,600億円と約40%程度まで激減しているのが現状です。(参考:林野庁|林業の動向(1)、農林水産省|令和4年 林業産出額)
そのため、2005年には全国で20万ほどあった林業経営体数は2020年には3.4万まで大幅に減っています。(参考:林野庁|林業の動向(2))
しかし一方で、政府は脱炭素社会実現に向けた国産材利用や木材自給率アップを推進しており、林業の現場と大きなギャップが生まれている点は否めません。
このギャップを埋めるためには、今林業が抱えている具体的な問題を知ることが重要です。
所有者不明森林・不在村森林所有者の増加
林業を営む人が激減している中、所有者が分からない森や所有者が遠方に住んでいて管理の行き届いていない森林が増加しています。
所有者不明林地面積 (持ち主が分からず放置されている森林面積) | 全体の28.2% |
不在村森林所有者の所有林地面積 (森から離れた場所にいる人が所有する森林面積) | 全体の24% (このうち、相続時に何も手続きしていない割合は17.9%) |
所有者が分からない、もしくは所有者が遠方にいる森林は、正しい管理をできずに荒廃が進んでいるのが現状です。
日本国土の2/3を占める森林のうち、約60%が私有林です。
私有林が荒廃すれば、全国各地で地割れや地崩れなど物理的な被害も引き起こす可能性が懸念されます。
林業従事者の高齢化・人材不足
林業は、他の産業よりも高齢者率※が高く、従事者数も激減しています。
1980年にはおよそ14.6万人いた従事者は、2020年になると4.4万人まで減少してしまいました。(参考:林野庁|林業労働力の動向)
この動きは林業産出額の減少と比例しており、今後はより一層人材確保が難しくなる可能性が懸念されています。
※高齢者率:65歳以上の割合
日本の森林においては今まさに木材などに加工するのに適した樹齢(伐採適齢期)を迎えた樹木が増えているものの、人員不足でそれをうまく活用できていない現状も無視できません。(参考:林野庁|「森林資源の現況」について)
林業における事業性・利益率の低さ
日本は、国土のおよそ75%が丘陵を含む山地で構成されているため、人工林の大半は急な斜面に位置します。
そのため、平地よりも作業効率が落ち、北米やロシアなど日本以外の林業大国よりも運営にかかるコストが高く利益率が低いと言われています。
日本ではいまだにチェーンソーを使って1本ずつ伐採する方法が多く、その場合の生産量は一人当たり約5㎥程度ですが、欧米諸国では重機による伐採が多く、その場合の生産量は一人当たり約100㎥です。
オーストラリアにおける国産木材流通価格の約60%は立木価格なのに対して、日本の立木価格割合は約30%しかなく、それ以外は生産・流通コストが占めているのが現状であり、林業営業体が減少している一因と言えるでしょう。(参考:林野庁|林野庁の再造林の促進施策について)
あわせて問題視されているのが「再造林にかかるコスト」です。
何年もかけて育て上げた樹木を伐採した後に再び利益を生み出すためには、植林だけではなく木が育つのに適した環境を作るための間伐作業や下刈り作業が欠かせません。
間伐作業や下刈り作業は利益を産まない上に、木材素材価格はピーク時の半額以下になっていることから、経営不振に陥る林業経営者は少なくありません。(参考:奈良県|林業及び木材産業関連データ)
日本で建てられる住宅の約60%が木造で、最近は中規模以上の非住宅建築物における木造化も進んでいます。
そのため、建築業界が林業の問題解決の鍵を握っていると言っても過言ではありません。
林業経営・森林の衰退を止めるための課題・対策・取り組み
日本の林業や森林の衰退を止めることは、以下のメリットを生み出します。
- 地方経済の発展(ひいては日本経済全体の発展)
- 地方における安定した雇用の確保(東京一極集中の解消)
- 地球温暖化の抑制(木々が成長する過程で二酸化炭素を吸収して酸素を排出する)
これらを実現させる上で注目されているのが「建築業界の動き」です。
具体的には、以下の取り組みが実施されています。
木造・木質化の促進
日本は古くから木造住宅が主流ですが、近年その着工戸数は減っており、2003年の117.4万戸から2022年には86.1万戸(マイナス27%)と大幅に減少しました。(参考:国土交通省|令和5年度住宅経済関連データ|(1)新設住宅着工戸数の推移(総戸数、持家系・借家系別))
このままでは木材需要が減ってしまうため、政府主導で現在に至るまで以下の取り組みが実施されています。
- 脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称:都市の木造化推進法)制定
- 非住宅建築物における木造化・木質化を促進するための法整備(建築基準法など)
- CLT(直交集成板)の開発支援(CLTを活用した建築物への支援制度)
- 木質合板や不燃木材の開発支援
これらの取り組みにより、これまで法の制限によって木材を利用できなかった建築物も、木造・木質化されることが期待されています。
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国産材・県産材の利用促進
日本の木材自給率は1950年代は95%を超えていましたが、2021年は41.1%と大幅に下降しています。
これだけ見るとネガティブな印象を受けるかもしれませんが、2002年には過去最低の18.8%まで木材自給率が低下したため、近年は順調に国産材や県産材の利用が進んでいると言えるでしょう。
国産材・県産材の利用が進んでいる背景には、以下のような取り組みが影響していると考えられます。
- 各自治体による地産材利用に関する補助事業の実施(例:奈良の木を使用した住宅助成事業)
- 国産材の安定供給体制の構築(林業地域近隣の大型工場設置の進展など)
- 木質バイオマスのエネルギー利用
- 違法伐採防止にともなう輸入材からのシフト(クリーンウッド法制定や国産で産出地が明確な木材利用の優遇)
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森林管理システムの整備と施業集約化
所有者不明林や不在村所有者が持つ森林が荒廃する一因に、森林管理の難しさが挙げられます。
この問題を解決するために、2018年「森林経営管理法」が制定されました。
森林経営管理制度は、手入れの行き届いていない森林について、市町村が森林所有者から経営管理の委託(経営管理権の設定)を受け、林業経営に適した森林は地域の林業経営者に再委託するとともに、林業経営に適さない森林は市町村が公的に管理(市町村森林経営管理事業)をする制度です。
森林経営管理法が制定されたことにより、放置された森林の管理を市町村がまとめて実施できるため、コスト削減や人員の無駄を減らせます。
2024年から徴収が開始された森林環境税を活用する自治体も少なくありません。
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スマート林業の推進・デジタル化
日本の林業は世界の林業大国と比べると、多くの作業を人力に頼ってきました。
- 植え付け作業(苗木の運搬や植林)
- 下草刈り作業(植林後2〜3年間苗木まわりの雑草を取り除く)
- 森林調査(立木の計測作業)
- 間伐・伐採作業(チェーンソー伐倒や荷掛け、運搬)
これらの一連の作業は樹木が伐採適齢期に入るまで続き、短期間の利益を生み出しません。
そのため、これらの作業をICT化や機械化して、デジタル管理する動きが進められています。(参考:森林資源情報のデジタル化/スマート林業の推進)
林業のデジタル化が進むと、造林作業の低コスト化や人材の有効活用を期待できます。
エリートツリーの開発・植林
エリートツリーとは、各産地で選抜された精英樹※(第1世代目)の中からさらに「成長が早い・二酸化炭素吸収量が多い」など遺伝子的に優れた苗木を抜粋して、育てられている第2世代以降の樹木を指します。
※精英樹:成長が良く、その他の性質が優れている個体
成長が早く良質な樹木は、林業の作業効率が上がり利益化できるまでの期間を短縮でき、さらに地球環境にも優しい点がメリットです。
そのため、農林水産省を中心に長年エリートツリー開発や普及が進められています。(参考:林野庁|エリートツリーの開発・普及、林野庁|林業を成長産業へ! 「エリートツリー」を使用した低コスト造林へ )
新規就業者の確保・育成
人材不足が深刻な問題となっている林業へ、若者世代を中心に新規就業者を増やす取り組みが実施されています。
2003年に開始された「緑の雇用」事業は、これまで林業に携わっていない未経験者の必要な技術習得をサポートする取り組みです。
これまで緑の雇用事業を利用して林業へ就業した人の数は、20年間で約2.4万人にも上ります。(参考:林野庁|「緑の雇用」事業と林業労働力の確保・育成について)
そのほかにも、緑の青年就業準備給付金事業や、林業作業士(フォレストワーカー)や現場管理責任者(フォレストリーダー)、統括現場管理責任者(フォレストマネージャー)、森林総合監理士(フォレスター)などの技能者を育成し、就業者がキャリアアップできる環境づくりが進んでいる点もポイントです。
間伐材の活用
近年技術開発が進んでいるのが「間伐材の活用」です。
間伐作業は樹木の成長を促す上で欠かせない作業ですが、小径の間伐材はこれまで割り箸の原料や薪などにしか活用されず、あまり利益を生み出さない現状がありました。
その問題を解決するために、小径の間伐材をバイオマス燃料として活用したり、建材へ加工したりする取り組みが実施されており、間伐マークの表示によって消費者の選択購入を促して間伐材をより多く活用できる機会を広げています。
林業の課題解決に向けた「国産材・県産材利用」は柏田木材へご相談を
林業の問題解決に向けて建築業界がすぐに取り組める対策として注目されているのが「国産材・県産材利用」です。
国産材や県産材を積極的に採用することで、以下のメリットを得られます。
- 安定的に品質の高い建築木材を入手できる(世界の情勢に左右されずに、歴史の長い日本林業によって育てられた良質な木材を使える^)
- 近距離で減量が運ばれるため、納期遅延のリスクが少ない(工程管理しやすい)
- 長距離の運搬にかかるコストが上乗せされない
- 運搬時に発生する大量の二酸化炭素を削減できる(SDGsやカーボンニュートラル実現に貢献できる)
- 環境面でのメリットがCSRや企業(プロジェクト)イメージの向上につながる
- 為替レート(円安ドル高など)の影響を受けにくい
しかし、まだまだ国産材に特化した内装建材は限られます。
産出地を都道府県に限定すると、さらに材料選定が困難になるでしょう。
「建設地と同じエリアで育った木を使いたい」「使用する木材を国産材で統一したい」という方は、柏田木材までご相談ください。
柏田木材は、吉野杉や吉野桧の産地として知られている奈良県で1950年に創業して以来、良質な原木を仕入れて様々な建築木材へ加工販売する木質建材メーカーです。
これまで培った知識とネットワークを活かし、国産材・地域(地産)材の利用にも積極的に取り組んでいますので、産地にこだわった材料を採用したい方はお気軽にご相談ください。
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柏田木材は、自社製品を販売するだけに留まらず、お客様のご要望や課題を伺いながら仕様を共に決めていく“開発支援”や、“特注製造”も行っています。
そのため、材料選定やデザイン構想段階から製造まで一貫したサポートを提供できる点が弊社の強みです。
「こんな材料があればいいのに」というお悩みを解決するお手伝いをいたします。
まとめ
日本の林業は、今たくさんの問題や課題を抱えています。
それらを解決するためには、建築業界の取り組みが重要です。
建築物の木造・木質化に加え、木材の産地を国内・県内などにこだわってみてください。
林業発展だけではなく、カーボンニュートラルやSDGs実現に貢献できる建物になるはずです。
“柏田木材”は、良質な原木を仕入れて多種多様な商品を製造しているからこそ、木材のプロとしてお客様のご予算・設計デザインに合う木質床材を提案いたします。
「木質建材を使いたいが経年変化が心配」
「既製品の材料では設計デザインにフィットしない」
「国産材を使いたいがコスト面などでハードルが高い」
「希少樹種を使いたいが必要量の材料が確保できない」
「ウッドインテリアを採用したいが耐久性が心配」
そんなお悩みを抱えている企業様を、私たちがしっかりサポートいたしますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。